古老 故 杉本卯之助のはなし
一匹の狼がとった行動とは
奈良豆比古神社より北へ約300m、「坂下(さかしも)を経て「字舞台(あざぶたい)」から「字高座(あざこうざ)」に至るところより東の方一帯を「奈良阪町字狼谷(ならざかちょうあざおおかみだに)」といった。
昔この辺りに狼が住んでいたそうである。
昭和53年(1978年)9月30日、この一帯で住宅開発が行われ、昭和58年(1983年)6月1日、この開発地を「奈良市青山町1丁目〜9丁目」と町名の設定をみて、今は昔の面影はない。
古老はある一匹の狼について話をしてくれた。
昔 托鉢巡礼の僧が、奈良から加茂・笠置への道中、この近くまで来ると、いつもきまって一匹の狼が現れる。
群れからはぐれた狼か?
あるいは仲間外れの狼か?
僧は恐る恐る背中に掛けている荷物を解いて、竹の皮に包んだ握り飯を取り出し、狼に投げるようにして与えては、その場を逃げるように通り過ごすのがいつもの事であった。
ある日のこと・・・
狼は僧の衣の裾をくわえてはなさず、山の中へ僧を連れ込もうとした。僧は逆らえば襲われるだろう・・・と思い、こわごわ狼のしぐさのままについて行くと、小さな洞穴が・・・
狼は僧をその中へ連れ込んだ。
しばらくすると、ドドーッと山鳴りがした。
周囲に大きなどよめきが起こったかと思うと、狼の大群が洞穴の前を横切って山の中へ消えていった。
僧は生きた心地はなかった。
もし、僧がいつものようにこの道を歩いていたら、狼の大群に出くわし襲われていたことであろう。
僧はこの狼のおかげで命拾いをしたのである。
この狼は、僧に日ごろの恩返しとして僧の命をたすけたのであった。
この話は「群れからはぐれた狼の恩返し」の逸話として今に語り継がれている。
このお話は紙芝居になって、鼓阪北小学校で子供たちにも親しまれています。