伝説・よもやま話

大黒平だいこくひらの化かし狐

奈良阪町内、釜屋辻子(かまやずし)を約1㎞ほど西へ行くと黒髪神社(くろかみじんじゃ)がある。この辺一帯を「奈良阪町字大黒平(ならざかちょうあざだいこくひら)」という。

今は黒髪神社があるところから、黒髪山町と言っている。

昭和20年(1945年)の終戦当時、アメリカ進駐軍将校の宿舎が建てられたが、接収解除のあと、昭和36年(1961年)に奈良ドリームランドが開園(2006年8月31日閉園)。また、近くにはゴルフ練習場が出来て昔の面影もない。

当時、この周辺は赤松や雑木が生い茂り、うっそうとしたところで道も狭い。しかし黒髪神社から西へ行けば「字・十八町谷(じゅうはっちょうだに)」、さらに「字車谷(くるまだに)」を経て「法華寺〜佐紀」方面へ通じる主要な街道筋で、「生駒の暗がり峠」を越えて大阪への近道でもあったらしい。

魚屋の不思議な体験

さて話は、この人里離れた淋しい「大黒平(だいこくひら)」の化かし狐にまつわる古老の語り。

魚屋を商っていた村人が、この日も朝早くから家を発って、大阪へ魚を仕入れに行った。

魚を買って暗がり峠を越えて帰る途中で、もう日はとっぷりと暮れていた。

急いで歩いても大黒平まで帰ると、もう夜も更けていたそうである。

その日は闇夜であった。魚屋は暗闇で、狭い大黒平の道筋が急に曲がって見え、木の根に足を取られて転んだ。

しかし荷物はしっかりと背負っていたそうである。

ふと足を見ると膝から血が出ている。とっさに鉢巻(手ぬぐい)をとって膝をくくり、あわてて家に帰った。

寝ている家族を起こして、傷の手当をしようと膝の手ぬぐいをとったところ、不思議なことに、膝には何の傷跡もなかった。

魚屋はこの時、はっとして荷物を調べてたみたところ、大きなタコが一匹盗まれていたそうである。狐にだまされたことにはじめて気づいたのだ。魚屋は腹がたつやら、悔しいやらで、一晩中眠れなかったそうである。

そんなことがあって、その後は、必ず家族の誰かがこの辺りまで、灯を持って迎えに行くようになった。

(古老 故 杉本卯之助のはなし)

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