伝説・よもやま話

紙芝居・おおかみのおんがえし

文:伸之介  絵:なかたにゆか
ひとりぼっちのおおかみと あるおぼうさんのおはなし

とおいとおい 昔(むかし)のこと

一人のお坊(ぼう)さんが

奈良(なら)から加茂(かも)、笠置(かさぎ)へと、てくてく歩(ある)いていました。

むかしは電車(でんしゃ)もなかったので、時間(じかん)をかけて歩くしかなかったのです。

この(道)みちはいつもとおる道でした。

あるひのこと、

いつものとおりこの道を歩いているとちゅう、

おなかがすいたので、おひるごはんを食べることにしました。

竹の葉(たけのは)でくるんだおにぎりがみっつ

「あ〜つかれたわい、よっこいしょ」

お坊さんは道のはずれにこしをおろしておにぎりをたべはじめました。

「こりゃあおいしい!」

ながいあいだ歩いていたのでとてもおなかがすいています。

「ん?」

お坊さんはだれかにみられているような気がして、うしろをふりむきました。

すこしはなれた草(くさ)かげから、いっぴきのおおかみが、じっとこちらを見(み)ているではありませんか!

「ひゃ・・おそろしいなぁ。わしをたべようとしているのか?」

おおかみはじっとお坊さんを見つめています。

「むれからはぐれたんじゃろうか・・・ほれ!」

やさしさと、こわいきもちがまじったお坊さんは

おにぎりをひとつ手にとると、そのおおかみの前(まえ)にポイっとなげてあげました。

おおかみはよほどおなかがすいていたのか、あっというまにそのおにぎりをたいらげました。

それからというもの、おぼうさんがそのちかくをとおるたびにおおかみがどこからともなくあらわれ、

お坊さんはいつもおおかみにおにぎりをあげるようになりました。

「おにぎりばかりじゃあきるよなぁ・・・」

そのじだいにはハンバーグもソーセージもありません。

まぁ、こんなちょうしでお坊さんとおおかみのふしぎなおひるごはんが、しばらくつづいた、というわけです。

ある日のこと

いつものようにちかくをとおりかかったお坊さんの前(まえ)におおかみがあらわれ、

きょうもおにぎりをあげようとしたら、

おおかみは「ウゥゥゥゥ・・」とひくくうなり、お坊さんのきもののすそをくわえました。

「こ、これ・・なにをするんじゃ。」

おおかみはお坊さんのきものをくわえてはなさず、どこかへつれていこうとします。

「このきものたかかったんじゃぞ、やぶれたらどうするんじゃ」

でも、おおかみはお坊さんをひっぱっていきます。

お坊さんもさすがにこわくなって、おおかみのするとおり山(やま)の中(なか)に連れられていきました。

おおかみは山の中のちいさなどうくつにお坊さんをつれこむと、じっとそこにすわりこんでしまいました。

「はて?いったいこれはどういういことじゃろうか・・・それにしてもせまくるしいなぁ」

ちょっとでもお坊さんがどうくつからくびを出(だ)して外(そと)を見ようとすると

おおかみは「ウゥゥゥ・・・!」と、うなりごえをあげます。

「わかった、わかった、じっとしてるからそんなこわいかおをしないで。

それにしてもおぬし、むしばもない、よい歯(は)じゃなぁ」

「ウゥ!」

「ひぇ・・はいはい。もうじょうだんはいいません」

しばらくすると

どうくつの外(そと)がにわかにざわざわとして

ドッドド、ドドゥド、ドッドドドッ・・・と

それはそれは大きなやまなりがひびきわたりました。

「な、、、なんじゃ?なにごとじゃ?」

おそるおそるどうくつのそとをのぞいてみると、

さとのほうから山の中にむかって、

目(め)のまえをなんじゅう、なんびゃくというおおかみが、かぜのようにかけぬけていくのが見えました。

どのおおかみもきばをむき、目(め)もちばしっています。

「ウォォォ・・・ウォォォ!!」

お坊さんはいきたここちがせず、こしをぬかし、どうくつのおくであたまをかかえ、

ただただガタガタふるえていました・・・

そうです、もしおおかみがおぼうさんをどうくつにつれこまなかったら、

いまごろお坊さんはおおかみの大群(たいぐん)におそわれていのちを落(お)とすところだったのです。

むれからはぐれたこのおおかみは、ひごろのおんがえしとして

お坊さんを死(し)のピンチからすくってくれたのです。

「こんどからたまごやきもサービスしよう・・なむ〜」

お坊さんはかんしゃのことばを手をあわせてつぶやきました。

このお話は、古老が語った伝説「狼の恩返し」から作られました。

紙芝居は奈良市立鼓阪北小学校の子供たちがおこない、今も小学校の図書館に絵と物語が掛けられています。

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