奈良豆比古神社

奈良豆比古神社に伝わる面

奈良豆比古神社の祭神「春日王」には長男「浄人王(きよひと)」と次男「安貴王」がいて、その長男の「浄人王」について、《奈良坊目拙解(1735年村井古道著)・巻第十三条・奈良神社》にこのように記されている。

祖浄人、散楽俳優を好み、この芸術を以て春日明神に祈って験あり。巷に父君春日王の白癩病を平癒せしめむ候。即ち世に云う、申楽能芸の翁、三番叟等の面は「浄人」に起こると之に困り、当郷の人の能芸を為すは、是れ此の余風なり候。

奈良坊目拙解

かなり古くからの能楽のゆえんが説明されている。ただ、能楽の本拠であった春日大社との関係についても考えるべきとも言われている。

奈良豆比古神社に残されている能・狂言面は二十面で、奈良国立博物館に保存されているが、いずれも仮面としての様式や手法などからすれば、やはり古様の、おそらく室町時代と思われるものが数多くある。

特に能面ベシ見(堅六寸八分・横五寸・奈良県文化財指定)は面裏に「千草左衛門大夫作・応永廿季二月廿一日」と刻銘があって、これが室町時代のかなり早いころの応永20年(1413年)に千草左衛門大夫という面打ち師によって作られたもの。能面作家として最もすぐれているといわれる十作の中の一人である。このベシ見面には、かなり生気にあふれた力強さがある。

その次は中将(竪六寸五分・横四寸五分)で、この裏面に「十二(花押)と墨書があり、これもまた室町時代中期ごろに活躍した能楽師十二大夫の関係において作られたものであろう。

またこれに似たものとして、平太(竪六寸五分・横四寸五分)と怪士(竪六寸九分・横四寸四分)がある。

そのほか、翁二面は何の銘もないが、その作りからしてこれが能面として極めて古様であって、やはり室町時代中期を降らないものである。

尉面(竪六寸九分・横五寸)の裏面に「長命次郎大夫」と金泥書銘があり、これが江戸時代中期ごろの金剛座の連れとして活躍した「長命次郎大夫」の関係において作られたものである。

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